語音知覚における残響の効果について、これまで十分な基礎データが報告されていないのが現状であった。そのため、本年度は以降の研究に応用可能な基礎データの収集を行った。前年度までに行った予備実験に基づき、健聴な成人男女30名を対象として異なる残響時間を持つ単音節が知覚される際のラウドネスを検討した。残響のない原音を標準刺激、コンピュータ上で残響を畳み込んだものを比較刺激として、両刺激を連続呈示した上で被験者調整法により残響の程度によるラウドネスの変化を検討した。本実験で用いた残響インパルスは0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0秒の計6種であった。結果、残響を含まない標準刺激と比較して、全ての残響時間でより大きなラウドネスが得られた。また、残響時間の長さ依存的にラウドネスが大きくなることが示された。本研究で用いた全ての単音節の平均値を算出したところ、標準刺激と比較して、残響0.5秒でのラウドネスは+5.8dB、残響3.0秒でのラウドネスは+7.61dBであった。 以上の結果に基づいて単音節ごとのラウドネスを算出し、聴感レベルでの音量校正を施した。その後、ラウドネス校正を施した清音2音節から成る無意味綴りの語音明瞭度を予備的に測定したところ、語音明瞭度は残響時間依存的に低下することが明らかになった。本研究の主目的である補聴効果改善のためには、本年度に用いた0.5秒よりも短い残響時間を用いる必要性が考えられた。残響が無い通常音声と比較してより大きく、かつ語音が明瞭に聴取可能な残響時間を算出することにより、補聴効果改善の手法だけではなく、日常的な生活空間である住環境の改善手法への応用が期待される。
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