語音知覚における残響の効果について、これまで十分な基礎データが報告されていないのが現状であった。平成21年度までに行った実験から明らかになった問題点を踏まえ、平成22年度は、コンピュータ上で0.1、0.2、0.3、0.4、0.5秒の残響インパルスを畳み込んだ日本語単音節を刺激として用い、残響の程度によるラウドネスの変化を検討した。その結果、ラウドネスは残響時間の二次関数として知覚されること、二次関数の極大値(最も音が大きいと感じる残響時間)は0.4秒であることが明らかになった。残響を有しない単音節と0.4秒の残響を有する単音節のラウドネスの差分は5.99dBであった。 また、前年度の実験から残響時間の違いによる微少な語音明瞭度の変化を検出する必要性が考えられたため、音声劣化処理を施した語音での明瞭度測定を行った。特定領域(低域、高域、中間領域)の周波数を選択的に通過させる3種の音声劣化処理フィルタについてそれぞれ複数のカットオフ周波数を設け、ノイズ無し環境と45dBSPLのスピーチノイズ環境において音場語音明瞭度の測定を行った。その結果、カットオフ周波数が2000Hzの低域周波数通過フィルタを用いた場合最も効果的に微少な語音明瞭度の変化を検出できることが明らかになった。 残響がない通常音声と比較してより大きく、かつノイズが存在する環境においても語音が明瞭に聴取可能な残響時間を求めることにより、補聴効果改善だけではなく、日常的な生活空間である住まいの音環境改善手法への応用を期待することができる。
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