我々の日常生活に存在する雑音を考慮し、実際の語音知覚により近いと考えられる雑音呈示下での残響語音知覚を検討した。雑音下での残響語音のラウドネスを検討するため、雑音として7話者によるATR25文読み上げ音声ファイルをランダムに重畳した音声騒音を、残響語音として日本語単音節に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5秒の残響インパルスを重畳したものを用い、これらをヘッドフォンで呈示した。残響0秒(残響なし)と比較して全ての残響語音で有意に大きなラウドネスが得られ、5種の残響語音間におけるラウドネスは同程度であった。単音節ごとのラウドネスを算出することで聴感レベルでの音量校正を施した単音節を用い、音声騒音呈示下における語音明瞭度と、マグニチュード推定法による「聴き取りにくさ」の評価を行った。残響0秒の語音明瞭度と残響時間0.3秒までの語音明瞭度は同程度であり、残響時間0.4秒以上で語音明瞭度が有意に低下することが明らかになった。また、残響0秒と残響0.2秒までの聴き取りにくさは同程度であり、残響時間0.3秒以上で語音の聴き取りにくさが有意に増大することが明らかになった。これらの結果から、1、残響0秒と比較して0.1秒以上の残響時間でラウドネスが増大すること、2、残響0.1秒及び0.2秒の語音明瞭度及び聴き取りにくさは残響0秒と同程度であることが明らかになった。スピーカーから音声騒音と残響語音を呈示した音場実験からも、上記のヘッドフォンを用いた実験と同様の結果が得られた。 以上の結果から、残響がない語音と比較してより大きく、かつ残響がない語音と同程度に明瞭な語音聴取が可能な残響時間は0.2秒以下であることが明らかになった。音場でも同様の結果が得られたことから、本研究の結果は補聴効果改善に資するのみならず、日常的な生活空間である住まいの音環境改善手法への応用が可能である。
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