本年度(平成22年)は、これまでに確立した音響外傷性難聴モデル動物を用いて研究を発展させた。具体的には、まずDNAの酸化障害である8-オキソグアニンを除去する酵素(8-オキソグアニン-DNAグリコシラーゼ)をコードするOgg1遺伝子をノックアウトしたマウスを用いて、内耳障害のメカニズム解析について検討した。強大音響負荷後のノックアウトマウスと野生型マウスでは、聴覚機能(聴性脳幹反応:ABR)に有意差がみられた。この成果は第20回日本耳科学会にて報告した。次に内耳防御研究に関して、シグマ受容体に選択的に作用する新規の低分子化合物であるSA4503の内耳保護効果を検討した。シグマ受容体は脳に広く分布する受容体で、様々な生理機能、特に高次脳機能に深く関与すると考えられている。その一方で、分子レベルでの機能においては未だ不明な点も多いが、近年小胞体シャペロンとして細胞の生死制御や、神経の再生・分化に深く関与することが報告されている。そこでまず内耳におけるシグマ受容体の発現を確認し、次に音響外傷性難聴モデル動物に対して、SA4503の内耳保護効果を聴覚機能・内耳形態の両面から証明した。この薬剤は現在、アメリカにおいてすでに脳梗塞患者を対象に第II a相臨床試験の段階にあるもので、感音難聴に関してもより臨床応用に結び付く研究と考えられる。この成果は第34回Association for Research in Otolaryngologyにて報告した。
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