本研究では蝸牛線維細胞を標的とした骨髄間葉系幹細胞移植の効果的な細胞導入法を開発することを目的とし以下の実験により良好な結果が得られている。 移植用幹細胞の作製:移植用骨髄間葉系幹細胞(MSC)作製のため、C57BL/6マウス由来H1/A骨髄間葉系幹細胞株にEGFP遺伝子(緑色蛍光)をレトロウイルスにて発現させ、安定的に強度な蛍光を発する細胞を選抜クローニングした。更に成体内耳より新たに間葉系幹細胞様細胞を樹立しその分化能解析から有毛細胞の特異的マーカーMyo7aの発現と頂部にアクチン重合を伴う巨大繊毛を確認し、内耳有毛細胞様の細胞に分化することが明らかとなった。 幹細胞の経半規管移植:後半規管および外側半規管に小孔をあけ、後半規管より2x10^5 cellsを還流した。Brn-4欠損マウスの作製:癌研究所(東京、有明)にて凍結保存したBrn-4欠損マウスの受精卵を順天堂大学動物施設にて融解し、C57BL/6J系統のレシピエントマウスに移植してBrn-4欠損マウスの個体を得た。これらの交配、遺伝子タイピングによる選抜により大量の同欠損マウスを作製中である。 移植細胞の検出:経半規管移植後の組織をGFP蛍光検出により移植細胞の組織進入を解析し、前庭線維細胞組織内、蝸牛ラセン板縁組織内に移植細胞の生着を確認した。更に蝸牛線維細胞に選択的障害を与える薬剤3-nitoropropionic acid (3NP)により移植前に軽微な炎症を惹起したところ、細胞導入効率が大幅に上昇した。更にこの誘導機構の解析により、ケモカインMCP1とその受容体CCR2による誘導機序が示唆されたため、CCR2遺伝子を内耳より単離し発現用プラスミドを構築した。これを移植細胞に導入したところ、細胞生着効率が飛躍的に向上した。 これらの条件検討を推進することにより新規細胞治療法がBrn-4変異等による遺伝性難聴に対する更に効果の高い治療法として聴力改善につながると考えられる。
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