研究概要 |
平成21~22年における当科での耳手術症例数338例であった。その内訳は、真珠腫性中耳炎147例、慢性化膿性中耳炎99例、耳硬化症が12例であった。耳硬化症の術後の味覚障害が回復する過程を、実際の耳手術患者の術前、術後の電気味覚検査を使って確認し、ラット鼓索神経切断モデルにおいて神経栄養因子(BDNF, GFRα1, GFRα3)の発現が上昇する事を、国際学術誌(Acta Otolaryngology)に発表した。また日本では経験することが難しい側頭骨の解剖を学ぶために、米国ジアトルで開かれたJAPANlab2009セミナーに参加し、顔面神経、三叉神経および鼓索神経の解剖と走行をより詳しく習得することができた。また顔面神経の神経枝である、鼓索神経が手術によって侵襲される事で、三叉神経支配の舌知覚に異常が出る事を確認した。この知覚異常をモノフィラメント圧痛計と2点間の識別能を調べるディスククリミネーターによって定量化し、術後の機械刺激に対する閾値が術前に比べて上昇していることを確認した。これは非炎症耳において鼓索神経が損傷される事により、鼓索神経から三叉神経に入る神経線維の枝を介して三叉神経節で何らかの発現変化が起こっているものと推測している。今後はラット鼓索神経障害モテルにおいて、三叉神経や三叉神経節において、機械刺激受容体であるTRPV1やTRPA1などの発現変化を確認する予定である。また真珠腫性中耳炎や慢性中耳炎などの炎症が存在する中耳炎では、術前の炎症によって鼓索神経が障害される事によって、非炎症耳に比べて有意に術前の電気味覚検査閾値が上昇している事を確認した。
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