鼻症状の出現に、温度刺激が関与すると考えられているものの、その詳細なメカニズムについては未だ不明である。近年注目されている温度感受性TRPチャネル(transient receptor potential)を糸口に、そのメカニズムを解明することが本研究の目的である。 前年度は、温度感受性TRPチャネルの内、疼痛や43度以上の温熱刺激等により活性化され、気管支上皮や侵害受容に関わる末梢感覚神経(C線維)等に存在することが知られているTRPV1に着目し、ヒト下鼻甲介におけるTRPV1蛋白の発現を検討するため、蛍光免疫組織化学的染色法を行い、共焦点レーザー顕微鏡下に観察した。本年度はTRPV1蛋白と、炎症性メディエーターのサブスタンスPおよびCGRPとの共存の有無を、蛍光二重免疫染色法にて検討したところ、粘膜下神経線維にTRPV1と、サブスタンスP・CGRPの免疫陽性反応の共存が見られた。 また、リアルタイムPCR法にて、下鼻甲介組織にTRPV1 mRNAの発現が見られた。 鼻炎を有する下鼻甲介では、知覚神経に存在するTRPV1が42℃以下の体温で活性化され、サブスタンスPやCGRPを放出して血管の拡張やその他の鼻症状の出現を促進する可能性が推測された。 次に、8~28℃の寒冷刺激で活性化するTRPM8で同様の検討を行った。TRPM8免疫陽性反応は、線毛上皮細胞の尖端部・粘膜基底細胞・血管中膜・海綿状組織および粘膜下鼻腺の一部に見られたが、粘膜下神経線維には免疫陽性反応は見られなかった。 また、リアルタイムPCR法にて、下鼻甲介組織中にTRPV1およびTRPM8 mRNAの発現が見られた。 以上より、寒冷刺激がTRPM8を活性化し、線毛運動・鼻腺からの鼻汁分泌・血管の拡張や透過性を直接作用するという、既知の神経系を介する経路とは全く異なる鼻症状惹起のメカニズムが存在する可能性が示唆された。
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