聴覚は視覚とともに、社会生活上のコミュニケーションを行なう上で必要不可欠な体性感覚のひとつである。65歳以上で3分の1の人が患う加齢性難聴の克服は、高齢化社会における国民の生活の質にかかわる重要課題である。代表者は、聴覚発達期にエピジェネティック制御機構が関与することを発見し、その標的遺伝子について解析してきた。代表者は、エピジェネティック制御機構が加齢性難聴発症の分子機序にも関連すると考え、この仮説の検証を目的として本研究を計画し、遂行中である。平成21年度は、まずエピジェネティック制御機構で主要な経路となるDNAメチル化酵素Dnmt3aおよび3bの聴覚上皮における発現を、生後発達期から成熟個体まで、複数の動物種を用いて経時的分布を明らかにした。次に、感覚細胞障害型の加齢性難聴モデルであるDBA/2Jマウスを用い、聴力低下前後の蝸牛組織よりDNAを抽出し、定量的RT-PCRおよび定量的メチル化特異的PCRにより、過去の報告より選択した複数の遺伝子の発現量および転写調節領域のメチル化の程度を検討した。この結果、加齢性の聴力低下に伴い、有意にメチル化の割合が低下する3遺伝子領域を同定することに成功した。代表者は、この領域をdifferentially methylated in age-related hearing loss(DMahl、ディーマール)と名付けている。本研究は加齢性難聴の発症機構を新たな視点から解析するものであり、新規の加齢性難聴治療法開発へとつながる可能性をもつ。
|