遺伝性網膜変性疾患の代表疾患である網膜色素変性は進行性の視細胞変性を主体とする難病である。本疾患は原因遺伝子異常にともなう視細胞のアポトーシスないしネクローシスがその本体であると考えられている。治療法開発においてアポトーシスやネクローシスによる視細胞死の抑制による視細胞保護はひとつの有力な候補となりうる。本研究はその点に着目し、視細胞アポトーシスに関係していると考えられるカルシウム結合性タンパク分解酵素であるカルパインの視細胞死における役割とその抑制が視細胞保護におよぼす効果について、網膜色素変性モデル動物のひとつであるRCS(Royal College of Surgeons)ラットを用いて実験的に検討した。まず、RCSラット網膜から細胞分画法により細胞質画分とミトコンドリア画分を調整し、それぞれの画分に含まれるカルパインをウェスタンブロット法と酵素活性測定法により定量的ないし定性的に測定した。その結果、網膜細胞の細胞質ならびにミトコンドリア画分それぞれにカルパインが存在していることが明らかになった。RCSラットの網膜変性の進行とカルパインの酵素活性ならびにタンパク質発現との関係を調べてみると、網膜変性の進行にともなってカルパイン活性が増大していることが明らかになった。それぞれの画分での活性上昇時期を比較してみると生後4週目でミトコンドリア画分のカルパインが活性上昇を示すのに対して、細胞質画分は生後5週目で活性上昇を示した。この結果はRCSラット網膜変性では細胞質カルパインに先駆けてミトコンドリアカルパインがまず最初に活性上昇を示し、視細胞変性に重要な働きを担っている可能性が示唆された。今年度の結果から、ミトコンドリアカルパインがアポトーシス誘導因子を活性化し、アポトーシス誘導を引き起こしている可能性が考えられ、その点を明らかにするために次年度においてはRCSラットの眼内にカルパイン阻害剤を注射することによる網膜変性阻止効果についてさらに解析する予定とした。
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