網膜電図(ERG)を利用したマウス網膜神経節細胞応答の記録法の開発の研究で、平成22年度は今まで主にヒトのERGで報告されてきた網膜神経節細胞の評価法をマウス及び家兎に応用して実験を行った。 はじめにSTR(Scotopic threshold response)と呼ばれる、暗順応下に弱い光刺激により生ずる反応により、網膜神経節細胞の機能を解析できるか、またどのような条件が最も適しているかを検討した。刺激強度としては、我々の施設では、-7.2 log cd s m^2から-4.2 log cd s m^2の刺激強度で記録できた。振幅は-5.2 log cd s m^2の刺激で21.6+8.6(mean+SD)μVであった。網膜神経節細胞障害のポジティブコントロールである視神経切断モデルを使った評価でも、切断モデルでは7.3+1.6(mean+SD)μVとSTRが有位に減弱した。この結果よりSTRは視神経の評価に有用であることがわかった。 つぎにPhNR(Photopic negative response)と呼ばれる錐体ERGの一成分の中に網膜神経節細胞の成分が含まれるかどうかを検討した。視神経切断モデルにおいてPhNRの振幅は対象群と比較して有意な差は認められなかった。またテトロドトキシンを硝子体内投与した霊長類ではPhNRが減弱していることが報告されたため、マウスで同様の実験を行ったが有意な振幅の減少は認めなかった。追加実験で家兎の硝子体内にテトロドトキシンを投与してPhNRの振幅の変化を検討した。家兎ではPhNRは、有意に減少したが、他のb-waveなどの成分にも影響を与えることがわかりPhNRだけが網膜神経節細胞特異的な成分でないことが分かった。この結果PhNRマウス網膜神経節細胞の評価法としては機能しないことが判明したが、家兎ではある程度評価できることを示唆していた。
|