研究課題
【研究内容】眼表面における膜型ムチンの発現およびそのバリア機能を調べるために、培養ヒト結膜上皮細胞をもちいて実験を行った。特に、点眼液に含まれる防腐剤である塩化ベンザルコニウムによる眼表面ムチンへの影響とバリア機能の変化を調べるため、塩化ベンザルコニウムを添加した培養液にて、1分間暴露させた。塩化ベンザルコニウムが添加された培養細胞では、対照群と比較して濃度依存的に膜型ムチン(MUC16)の遺伝子発現が低下した。また、0.1%ロースベンガル試験にてバリア機能評価を行ったところ、塩化ベンザルコニウムに1分間暴露させた培養細胞では、バリア機能が低下していた。一方、WST-1をもちいた細胞障害を検討した実験では、細胞障害はあまり生じていなかった。つまり、結膜細胞において、1分間の塩化ベンザルコニウム暴露で細胞障害は少ないにもかかわらず、膜型ムチン発現およびバリア機能は有意に低下していたことがあきらかになった。さらに興味深いことに、1分間塩化ベンザルコニウムの暴露後、通常の培養液にもどすと7時間で膜型ムチンの発現およびローズベンガル試験でのバリア機能は元通りに回復していた。【意義および重要性】現在、点眼液の60%以上に塩化ベンザルコニウムが防腐剤として使用されている。臨床的には、点眼毒性による角膜上皮症が散見され、塩化ベンザルコニウムが関与していると思われる症例に遭遇する。ムチンは眼表面のバリア機能を担っており、塩化ベンザルコニウムとムチン発現の関連を研究することは、薬剤毒性角膜上皮症の病態の解明と治療へのヒントに非常に役立つと考えられ、今後も研究を続けていきたいと考える。
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