目的:角膜内皮は角膜の透明性維持に必要不可欠な細胞である。線維芽細胞様に変貌しうる治療困難な角膜内皮疾患全般の治療法を探索するため、角膜内皮の創傷治癒をサイトカインシグナルに着目して検討する。 方法:Wistarラットを使用。CAGプロモーターを用い、Cre/LoxPシステムを使用しアデノウイルスベクターによる遺伝子導入を行った。その後ヒアルロン酸にSmad7を混入したものとCre-Adのみのコントロール群とに分け、3日後、1規定の水酸化ナトリウム10mlを点眼し感染対策としてオフロキサシン眼軟膏(タリビット眼軟膏^R)を塗布した。そして3日後、1週間後、2週間後と経時的に屠殺し免疫組織化学的に検討した。また走査電子顕微鏡を用いて直接内皮面の微細構造を観察した。 結果:コントロール群では線維芽細胞様に変化した異常な増殖物が内皮下でみられ、リン酸化Smad2(Phospho Smad2)、a平滑筋アクチン(aSMA)、1型コラーゲンは角膜実質や角膜内皮下にみられた。Smad7群では角膜内皮下でのPhospho Smad2、aSMA、1型コラーゲンの発現は抑制されていた。PCNAは1週間後のみSmad7群で角膜内皮での著明な核内での発現が観察された。 考案:角膜内皮は軽度の創傷では各サイトカインの働きにより遊走し治癒するが、重度の創傷では炎症が高度となり、上皮-間葉系移行と同様の内皮-間葉系移行がおこり瘢痕治癒するため、遊走以外に組織線維化を予防することが求められる。Smad7を前房内に注入した群では著明に内皮下の異常な増殖物は抑制されており、免疫組織学的検討で内皮-間葉系移行が抑制されていることが判明した。TGFb/Smadシグナルを阻害することが角膜内皮透明治癒において有効となることが示唆された。
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