研究概要 |
失明などの重篤な視機能障害を引き起こす網膜変性疾患は、アルツハイマー病などの神経変性疾患と同様に神経細胞死の異常によって発症して進行性に神経細胞の障害が進む原因不明の疾患であり、その多くは有効な治療がない。これらの発症機構を解明するために、遺伝学的アプローチによる原因遺伝子の探索やステロイドをはじめとする薬物療法などの研究が行われているが未だ十分な解明にはいたっていない。近年アルツハイマー病の研究などで大きな注目を集めているように、神経変性疾患に見られるステロイドの脳内神経細胞の保護作用が、網膜変性疾患に対しても当てはまり同様の作用をステロイドが発揮するのではないかという視点から、本研究は、網膜における神経ステロイドの機能的役割および網膜変性疾患における神経ステロイドの作用機序について、分子生物学および組織化学的手法を用いて解析することを目的としている。 正常ラット網膜を用いて各種ステロイド代謝酵素の局在を明らかにするために、各種ステロイド代謝酵素抗体を作製し、その抗体の特異性について検討を行なった。これまでに得た抗ステロイド代謝酵素抗体は、aromatase,5α-reductase type I, type II, 5β-reductase, 3α-hydroxysteroid dehydrogenase (3α-HSD), 3β-HSD, CYP17であり、特異性の検討には、ウエスタンブロット法を行った。それぞれのステロイド代謝酵素を発現するベクターを作成し、COS-1培養細胞にトランスフェクションした後、細胞を回収したもの、および、それぞれ動物組織ホモジネートを材料として用いた。これによって得られた各種ステロイド代謝酵素特異抗体を用いた免疫組織化学法による各種ステロイド代謝酵素の網膜における発現、局在等を明らかにすることが可能となった。さらに胎生期からの一連の発生過程における神経ステロイドの役割、変性網膜と正常網膜との比較解析などから、網膜変性過程におけるステロイド代謝酵素と産生される神経ステロイドの関与、作用機序の解明へと展開していくことが見込まれる。
|