眼窩内の4つの直筋と下斜筋は、眼球赤道部付近に「滑車構造」をもちますが、これらは同じ層に含まれ、平滑筋線維を含む線維組織によって互いに連結されています。下直筋、下斜筋の「滑車構造」は、眼瞼の側からみると「下瞼板筋」といわれており、これは上眼瞼のミュラー筋と相同と考えられています。下瞼板筋は下眼瞼を後下方に牽引し、また、ミュラー筋は、下瞼板筋とは対照的に、上眼瞼を後上方に牽引します。しかし、ミュラー筋は平滑筋であるため、上眼瞼の長軸方向だけではなく、横方向からも牽引されなくては、その緊張を維持することはできません。そこで我々は、ミュラー筋と下瞼板筋の「相同性」という事実に着目し、ミュラー筋が4直筋や下斜筋の「滑車構造」と同一の層にあり、直接的な線維連絡をもっているのではないかと推測しました。この関係を明らかにし、かつ、その相互作用を解明するために本研究を行いました。その結果、推測したとおり、ミュラー筋は4直筋や下斜筋の「滑車構造」と同一の層にあり、直接的な線維連絡をもっていることが明らかになりました。本研究の成果はOphthalmology誌に受理されました。本研究の結果によって、上眼瞼は眼球とは独立して存在している構造ではなく、横方向への平滑筋線維の連絡によって、その緊張が自立的にも調節されている可能性があることが示唆されました。また、眼瞼下垂に付随して生じると考えられている自律神経症状は、本研究の結果に基づくと、ミュラー筋単独から生じる反応ではなく、眼窩内に存在する平滑筋線維群全体の反応を考慮する必要がある推測されます。
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