研究概要 |
組織工学には細胞源、足場、増殖因子が必要である(Langer, Science 1993)という概念に従って、生体外で増殖させたヒト脂肪組織由来幹細胞をタイプIコラーゲンを足場に、ゼラチン粒子徐放剤を用いた塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とともにヌードマウス皮下に移植し、ヒトおよびマウス由来の再生脂肪組織を以前より確認してきた(Tissue Engineering, Part A, 2009)。bFGFはin vivoでの脂肪組織再生に効果的であるが、乳癌細胞の増殖への関与が示唆されているため、乳癌術後の乳房再建への臨床応用を考慮する際にはrecombinant bFGFの使用は望ましくない。そこで自己血由来のPlatelet rich plasma (PRP)を用いた脂肪組織再生を計画した。PRPはbFGFやPDGF等の様々な増殖因子を含み、再生医療領域において有効性が報告されている。まず、コントロール群としてウサギ鼠径部にポリプロピレンメッシュで作成したケージ(直径2cm高さ1cmの円柱状形態)でスペースを確保し、内部に細切したタイプIコラーゲンスポンジを生理食塩水で懸濁したものを注入し、皮膚を閉じた。移植後3か月、6か月、12か月後に標本を摘出し、HE染色を行ってケージ内部の組織について評価した(各群n=4)。HE染色の結果、移植後3か月目にはケージ内部ケージ周辺に再生脂肪組織を確認でき、移植後6か月目にはケージ内部全体に脂肪組織が再生されており、移植後12か月にわたって再生脂肪組織が保たれていた。移植後6か月以降はケージ内部に新生血管も確認できた。この結果については、International Federation of Adipose Therapeutics and Science 2011 (Miami, FL, USA)で発表を行った。スペース確保のためにポリプロピレンメッシュを使用したが、これは生体内非吸収性材料であり材質としては硬く、臨床応用には適さない。ラクトソーブメッシュ[○!R]は、L-乳酸グリコール酸共重合体でできており、生体内で加水分解される。これは頭蓋骨の骨接合に使用されている。このラクトソーブメッシュで前述のポリプロピレンメッシュケージと同サイズのケージを作成し、内部にタイプIコラーゲンスポンジを埋入し、同様にウサギ鼠径部へ移植した。移植後6か月で標本を摘出し、HE染色を行い評価した。結果、ラクトソーブメッシュは大部分分解されていたものの、ラクトソーブメッシュ周辺には炎症反応が強く、内部の再生脂肪組織量は少量であった。またPRPの使用については、ウサギより採取可能な量の血液から抽出できるPRP量が少なく実験に用いることができなかった。PRP抽出手技を含めて、PRPの再生脂肪組織に与える効果については今後の検討課題である。
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