広範囲熱傷の治療において同種皮膚は有用な生体材料である。同種皮膚はスキンバンクにおいて凍結保存されているが、特殊な設備を要し保存期間も限定されている。本研究の目的は、ガラス化法を用いて皮膚の長期乾燥保存および凍結保存を実現することである。平成21~23年度に行った研究の成果を報告する。 (1)長期乾燥保存したヒト皮膚の、透過型電子顕微鏡による観察 ヒト皮膚をトレハロースを含む保存液に浸漬した後乾燥させ、3ヶ月間常温で保存した。長期乾燥保存したヒト皮膚の細胞構造を透過型電子顕微鏡で観察した。コントロール群と比較したところ、保存液を用いた群は、ミトコンドリアなど細胞内小器官の構造が保たれていた。 この結果より、トレハロースが乾燥保存の実現への鍵と考え、動物実験で実際に乾燥保存した皮膚を移植する実験を行った。 (2)常温乾燥保存ラット皮膚の移植実験 Green florescence protein-transgenicラット(GFP-LEWラット)を用いて、実際に皮膚移植を行った。GFP-LEWラットから皮膚を採取し、トレハロースを含む保存液に浸漬した後に2ヶ月間常温乾燥保存した。その後、加水して戻し近交系LEWラットの皮下に埋め込み移植した。移植から1ヶ月後に移植皮膚を摘出し蛍光顕微鏡で観察したが、発光はわずかであった。組織学的検査でも生着していなかった。保存液への抗酸化物質も行ったが、結果はほぼ同様であった。 目的達成における最も重要なポイントは細胞内にトレハロースをいかに取り込ませるかであると考えられるが、本研究の目的を達成するにはまだ手法の改良が必要である。
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