唇顎裂患者にとって顎裂部骨欠損に骨形成を得ることは咬合獲得のために重要である。近年の胎児エコー診断の発達により出生前に当科を受診する症例が増えた。一方、臍帯由来間葉系幹細胞の存在が報告された。我々は出生時に無侵襲で得られるUCを自家骨形成細胞供給源として着目した。当研究では再生医療材料を可及的に自家組織で賄うことを試み、UCから臍帯由来間葉系細胞(UC-MSCs)を得て、血清を臍帯血由来自己血清で賄い、足場をハイドロキシアパタイト(HA)としたUC-MSCsの骨形成能をin vivoで検討した。培養で用いる血清は遠心分離で臍帯血より得た。臍帯間質から得られた間葉系細胞を3-4週間培養し、気孔率85%の径5mmのHAディスクへ播種してさらに1週間培養した後に骨芽細胞へ分化誘導した。これをヌードマウスへ移植して6週間後に摘出して細胞組織学的活性を評価した。評価には組織像、免疫染色、骨芽細胞マーカーの発現を検討し、いずれもUC-MSCsの骨芽細胞への分化を確認した。この結果より、UC-MSCsを用いてHAを足場に顎裂部の骨形成改善が図れる可能性が示唆された。一方で骨髄由来間葉系細胞での骨形成と比較すると得られた組織像はより幼若な骨組織であった。この原因として播種した骨形成細胞数の不足や移植床の環境の影響が考えられる。また、間葉系細胞としてUC-MSCsは未熟な分化段階に位置し、骨芽細胞に分化させるにはより負荷が必要な可能性も考えうる。細胞には生来決められている有限なlife spanがあり、約10ヶ月で脱落する臍帯由来の細胞のlife spanが他の体組織より短く耐性も異なる可能性が考えられた。再生医療材料としてUC-HSCsの可能性が示唆されたが、一方で、臨床応用には細胞癌化など安全性をより注意深く検討する必要があると考えられた。
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