手術や外傷後にできるケロイドや肥厚性瘢痕は、長年外科医や患者を悩ませている。小さな切開創や毛嚢炎から、時に巨大なケロイドが発生する。これらは日常生活の妨げの原因となったり、疼痛やかゆみなどの問題を引き起こす。一度発生したケロイドや肥厚性瘢痕は、治癒させるために長い年月を要するため、予防が重要になるが、創傷治癒期に創へかかる緊張を解除することは、最も有効な方法の一つとして知られている。効率的に緊張を軽減するためには、瘢痕周囲に発生する応力の詳細について、解明することが必要であるが、その詳細は不明である。 今年度は、CTデータからリバース・エンジニアリング的手法を用いて、前胸部のケロイドモデルを作製した。皮膚・脂肪層・乳腺・筋層・骨・肋軟骨の形状データを抽出し、それらに特異的な物性値を与えた。作製されたモデルに、手術や外傷によって形成される瘢痕を作製し、人体の運動に相当する負荷を加えて、瘢痕周囲に発生する応力を有限要素法を用いて解析した。これらを実際のケロイドの浸潤パターンと比較検討することで、応力とケロイド拡大の検証を行った。 その結果、前胸部ケロイドに特徴的な、周囲の水平方向皮膚へ発生する高い応力が明らかになり、前胸部ケロイドの浸潤メカニズムの生体力学的側面が明らかになった。本研究で得られた知見を、今後手術や臨床現場で活用することにより、さらなる手術結果の向上やケロイド・肥厚性瘢痕予防につながると期待できる。
|