哺乳類は胎生の一定時期までは皮膚再生が可能であるが、それ以後は瘢痕を残して修復される。創傷部における炎症反応がその原因のひとつであると仮定し研究を行った。 マウス胎仔背部皮膚に全層切開創を作成し、創部へ集積する炎症細胞を観察した。胎生13日目から16日目の創部においては、そのほとんどがマクロファージであったが、胎生17日目以降になるとそれに加えて多数の好中球が集積するようになることが分かった。以前の研究から、胎生17日目以降の創傷では皮膚付属器を含めた真皮の構造が再生しなくなることが分かっていたが、これが好中球の集積開始時期と一致していることから、好中球が皮膚再生を阻害する一因である可能性が考えられた。実際、マクロファージや好中球を胎生13日目の創部へ注射して治癒結果を観察したところ、好中球を注射した群では、マクロファージを注射した群や対照群と比較して創傷治癒が遅れることが分かった。 好中球エラスターゼは強い抗菌作用を持つと同時に、肺の線維化など生体に不利な反応も引き起こすことが知られている。皮膚の創傷治癒においても瘢痕形成に関与している可能性が考えられたため、本年度は好中球エラスターゼに注目して実験を行った。成獣ICRマウスの背部皮膚に全層欠損層を作成し、好中球エラスターゼ阻害薬を皮下注射したところ、対照群と比較して有意に創傷治癒の促進を認めた。現在、好中球エラスターゼ欠損マウスにおける皮膚創傷治癒について解析を進めている。 マウスモデルにおいて、皮膚の創傷治癒が遅延するものは数多く報告されているが、野生型マウスより創傷治癒が促進されるものはほとんど存在しない。正常皮膚の創傷や難治性潰瘍の治癒を促進するために好中球エラスターゼの活性を阻害するという新規治療方法確立の可能性が示された。
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