毛包は胎生期に表皮と真皮の相互作用により形成される真皮凝集塊が、その後毛乳頭細胞となり誘導される。成獣の環境下での毛包再生においても同様に上皮と間葉の相互作用が重要であり、マウスを用いて毛乳頭細胞と表皮細胞を混合移植することで毛包誘導が可能であったとの報告は多い。一方我々はこれまでに、マウスの胎仔の真皮細胞や、skin derived precursorsという多分化能を有する細胞が毛包誘導能を持つことを発見し、これらを胎仔表皮細胞と共に免疫不全マウスの皮膚欠損層に混合移植することで、皮膚付属器を有した皮膚の再生に成功している。 しかし毛乳頭細胞を通常の二次元培養で培養すると、毛包誘導効率が悪化するとの報告は多く、我々も胎仔由来の真皮細胞を一度でも接着培養すると毛包誘導能が消失することを経験した。そこで我々は細胞に強制的に凝集塊を形成させ、培養下で接着しない状態を維持することが、未分化な状態を維持し毛包誘導能に関与しているのではないかという仮説を立てた。この仮説を元に、マウス胎仔および新生仔の皮膚由来線維芽細胞を用いて毛包誘導が可能か検証した。まずマウス背部皮膚より採取した細胞を接着培養により数継代培養した後、非接着性の培養皿を用いて細胞凝集塊を作成した。細胞凝集塊の培養を3週間行ったのち、同系マウス胎仔の表皮細胞と共に免疫不全マウス背部皮膚欠損創へ混合移植を行ったところ、移植後4週で毛包の再生を認めた。 本研究は本来毛包誘導能を持たない線維芽細胞が、培養条件を変えることのみによって毛包誘導能を獲得した点が重要である。このマウスでの実験の成果をもとに、平成22年度はヒト由来の培養真皮由来線維芽細胞と培養表皮角化細胞を用いて、ヒトにおいて毛包・皮膚付属器を含めた完全な皮膚を再生させるための至適培養条件を確立し、またその分子機構についての解析を行うことを目標とする。
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