本研究の目的は、ビスフォスフォネート系薬剤(以下BP)服用による副作用として近年報告されている口腔内手術後の顎骨壊死に対する治療法を確立することである。具体的方法としては、脂肪組織由来間葉系幹細胞と多血小板血漿を併用し、顎骨壊死部の骨再生が可能かどうかを動物実験で検証する。 H21年度は、動物実験モデルの開発を実施した。抜歯窩における骨再生遅延(上顎骨壊死)を誘発するため、Fischer ratにAlendronate(Ald)を2日毎に1.0mg/kgを5回腹腔内投与した。結果、投与1週間後に上顎第2大臼歯を抜歯した際の抜歯窩には壊死組織及び骨再生遅延等は組織切片上で認められなかった。 H22年度は、投与方法を再検討し、Ald投与量を1.0mg/kgから2.0mg/kgに増量し、抜歯前の投与回数を増加した。前回の評価方法と同様に、抜歯窩を周囲組織とともに採取した後、抜歯部位の組織標本のH&E染色を行い、画像解析による抜歯窩内の再生骨量の計測を行った。結果、今回の投与プロトコールにおいても、Ald投与による抜歯窩の壊死及び骨再生遅延は組織切片上では確認されなかった。 H23年度は、顎骨壊死動物モデルの作製を継続するとともに、脂肪組織幹細胞と多血小板血漿との併用による骨再生能を、すでに報告されている頭蓋骨欠損モデルを用いて検証した。実験動物鼠径部から採取した脂肪組織をコラゲナーゼ処理後、基本培地で第3継代まで培養し、同種由来の多血小板血漿とともに骨欠損部に移植した。移植8週後、骨欠損部周囲と連続する新生骨が骨欠損全体にみられ、ほぼ欠損領域全体を覆う硬組織再生所見が組織切片上で確認された。本研究中で用いたAld投与プロトコールは、BP系薬剤投与による抜歯窩の顎骨壊死を実験動物にて再現することが困難であった。
|