外傷性脊髄損傷モデルラットにadipose-derived stem/stromal cells(ASCs)を経静脈的に移植すると、対照群(saline)に比較して障害を受けた後肢運動機能の回復が著しく促進し、脊髄損傷部の空洞が小さい、すなわち、脊髄損傷に対する治療効果が得られること、またその作用機序の一つとして好中球走化因子cytokine-induced neutrophil chemoattractant-1(CINC-1)の関与を示唆する知見をこれまでの研究から得ている。本年度は、ASC移植後の機能回復促進効果におけるCINC-1の役割について、ならびに移植細胞の安全性について検討した。 CINC-1は脊髄損傷後一過性に上昇し、二次損傷の拡大に関与することが知られており、本研究でも健常ラットに比較して損傷5時間後の脊髄では150倍以上に増加することが確認された。一方、ASC移植3時間後の脊髄CINC-1の増加は10倍以下であり、その上昇の程度は損傷直後の増加に比較して小さいものであった。Sponge implantation法を用いてASCsの血管新生作用を検討したところ、対照群(saline)に比較してASCsを含浸させたスポンジ中には多数の血管が観察され、ヘモグロビン含量も有意に増加した。CINC-1含浸スポンジにおいても同様に、新生血管の観察およびヘモグロビン含量の増加を認めた。しかしながら、それらはCINC-1含浸0.1μgをピークとして認められ、1μgのCINC-1含浸スポンジではもはや観察されなかった。以上のことから、急激な上昇あるいは大過剰のCINC-1は損傷の拡大につながるが、中程度の上昇はむしろ機能回復につながる可能性が示唆され、ASC移植の作用機序の一つとして興味深い知見が得られた。 また、移植8週間後の脊髄においてASCsの生着は認められず、移植後長期生存は困難であること、それ故に腫瘍発生等の有害事象も認められないことからASCsは移植細胞として安全であることが示唆され、中枢神経再生療法における脂肪組織の有用性が高まった。
|