研究概要 |
敗血症性ショックにおいては、マクロファージや好中球などの炎症性細胞がサイトカインを放出し、さらに炎症が誘発される悪性サイクルが形成されて重症化する。このため炎症をある点で抑制することにより、ショック状態を改善させることができると考えられているが、強く炎症を抑制すると病原体に対する抵抗力が低下するため、両者のバランスを取らないとさらなる予後増悪因子となり得る。一方、、アディポネクチンは脂肪細胞が分泌するアディポカインの有力な分子であり、糖尿病の慢性炎症によるインスリン抵抗性を改善する働きを持つと考えられている。この、アディポネクチンの敗血症における働きをアディポネクチントランスジェニック(Tg)マウスを用いて検討してきた。 昨年までの実験からアディポネクチンTgマウスにおいて敗血症の生命予後が改善され、それらは炎症の抑制作用を介していることが判明した。本年は、血中アディポネクチン濃度が正常の50%低値を示す、糖尿病患者と同様の低アディポネクチン血症ヘテロ体低発現マウスに盲腸結紮穿刺による敗血症の生命予後が7日間でワイルドタイプの30%に比して6.6%と悪化することが判明した。腹腔内マクロファージを採取して、アディポネクチン受容体1,2の発現を、定量PCRにて検討したところ、両者ともに低下していた。さらにアディポネクチン下流のAMPカイネースの発現を検討したところ発現は変化せず、リン酸化の低下がウェスタンブロットにて証明された。炎症を司っているマップカイネース(ERK、JNK、p38)の検討を行ったところERK・JNKのリン酸化は低発現マウスにおいて上昇していた。また、臓器障害を示す、肝・肺における炎症性細胞の浸潤の増加、ミエロペルオキシダーゼ活性の上昇も認められた。 これらからアディポネクチンの敗血症における役割の重要性を示すことができたと考えられる。マウスのタイピングと増殖に時間がかかったため、現在論文を作成中である。
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