炎症反応過程に伴う不適切な肺損傷および肺線維化による機能的肺胞障害に対する臨床的に有効な治療法は未だ存在せず、肺組織の損傷・修復メカニズムの解明はALI/ARDSを含む重篤な炎症性肺疾患に対する治療法を確立する上でも重要である。本研究は、細胞骨格制御タンパク質であるモエシンが、肺組織において特異的発現を示す肺胞上皮細胞において内在性の肺胞構造維持タンパク質としての役割を探求することを目的とする。この目的を達するため、平成21年度は、主に野生型マウスならびにモエシン欠損マウスの肺組織よりII型肺胞上皮細胞を分離培養し、in vitroにおいて生体内での肺胞上皮構造を模倣することに主眼を置いた。しかしながら、モエシン遺伝子の改変マウスの繁殖が困難を極め、加えてマウスからのII型肺胞上皮細胞の回収率・生存率の低下が問題となり、予定していたプロトコールでの実験遂行は困難と判断した。このため、次年度では代替方法を用い、ヒト肺胞上皮細胞を使用し遺伝子ノックダウン技術を用いて、モエシン遺伝子発現を抑制することにより、研究計画の継続遂行が図れるよう努める。一方で、我々はモエシンとの相互作用が示唆されている膜タンパクである中性エンドペプチダーゼ(NEP)に着目し、臨床的ならびに実験的肺損傷時に、循環血漿中において、その活性が低下することを見出した。加えて一方で、気管支肺胞洗浄液(BALF)中においては、対照的にNEP活性の増加を認めた。現時点でALI/ARDS病態下での有効なバイオマーカーは存在せず、この事実はALI/ARDSによる肺胞障害の重症度マーカーとしての可能性を示唆するものである。
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