研究概要 |
顎関節の滑膜表層には滑膜表層細胞が上皮様に配列しており,それらはマクロファージ様A型細胞と線維芽細胞様B型細胞の2種類に大別される.しかしながらB型細胞の形態は多様性を呈し,多彩な機能をもつ細胞が混在すると推測されるものの,それらはすべてB型細胞と総称されている.顎関節疾患の病態を理解する上で,B型細胞の形態学的特徴を明確にし,生物学的分類を確立することは必須の課題である. これまでの研究成果を基に,本研究では筋特異的分子に着目して,正常なラット顎関節滑膜のB型細胞における,それらの局在を免疫細胞化学的手法にて検索した.昨年度までに筋特異的中間径フィラメントであるデスミンをB型細胞が発現することを見出し,その免疫組織化学的特徴を検討した結果,デスミン陽性B型細胞の一部はカベオリン-3という筋特異的タンパクを発現するものの,収縮能を示す抗平滑筋アクチン,抗カルデスモン抗体等には弱い陽性反応を示すのみで,筋分化へと促す調節因子の発現も認められなかった.免疫電子顕微鏡法を用いて観察すると,この細胞の近傍には微小な管腔構造とマクロファージ様細胞であるA型細胞が常に存在しており,上記のような免疫細胞化学的特徴は,血管新生時に管腔形成に先立って出現する血管周皮細胞の前駆細胞に類似していた.そのため,本年度は周皮細胞の種々マーカーの発現を検討したところ,デスミン陽性B型細胞に周皮細胞マーカーの共存が認められた.また発育過程の滑膜において,デスミン陽性反応は初期から存在し,総細胞数の増加に応じて陽性細胞も増加する傾向にあった.これらの結果からB型細胞と総称される中には筋特異的タンパクを有する分化した細胞が存在し,その細胞は筋分化傾向や収縮能はもたず,血管形成に関与している可能性が示唆された.
|