レチノイン酸代謝酵素の一つであるCyp26B1の遺伝子欠損マウスは頭蓋顔面形成不全を示すが、この異常に先立ち多くの遺伝子発現の変化がマイクロアレイによる解析で判明した。転写抑制因子であるTrps1はその発現がCyp26B1ノックアウトマウス胎仔鰓弓で低下していたもののひとつであった。Trps1ノックアウトマウスの頭蓋顔面形成を解析したところ、下顎近位部の発生が極めて貧弱であることが分かった。この領域はCyp26B1ノックアウトマウスにおいても重度の形成異常がみとめられた。しかしTrps1の培養細胞における遺伝子発現やマウスTrps1のプロモーター配列はレチノイン酸の添加により影響を受けなかった。これらのことからTrps1は頭蓋顔面発生の過程で(直接的ではないものの)レチノイン酸によるシグナルの下流に位置し、特に下顎部の正常発生に必須の因子であることが分かった。
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