研究概要 |
A群レンサ球菌(Group A streptococci ; GAS)は,局所性化膿性疾患として咽頭炎や膿痂疹を起こすだけでなく,二次性続発疾患としてリウマチ熱や急性糸球体腎炎を惹き起こす.さらに,頻度は低いが,壊死性筋膜炎やショック症状を伴う劇症型GAS感染症に罹患した場合,高率で死亡することが報告されている.感染病態は,局所性および全身性への感染を呈し,急性や慢性の経過を辿る.GASが多様な解剖学的部位へ様々な疾患を惹起するためには,感染部位において,病原因子群の発現を巧みに調節することが必要不可欠である.しかし,発現調節のトリガーとなる環境シグナルやそれを感知するGAS因子は依然として解明されていない.本申請研究では,この発現調節の最も上流に位置すると考えられる二成分制御系(Two-component system ; TCS)が,いかに病原性に関わるかを中心に解明することを目的とした.臨床分離頻度が高い血清M型3型株を親株とし,レギュレーターとセンサーをコードする遺伝子のそれぞれについて,温度感受性ベクターを用いて,in-frame欠失株を作製した.M3型株は12種のTCSを有するが,1種のTCSについて,欠失株の作製が不可能であったため,このTCSは生存に必須であることが示唆された.作製した欠失株の増殖培地中での成長を検討した結果.野生株と比較して,著しい成長度の変化は認められなかった.また,寒天培地上に生育した欠失株のコロニー形態を観察した結果,野生株と異なるコロニー形態を呈したのは,レギュレーターであるCsrRの欠失株であった.そのコロニーは,莢膜が過剰に発現したムコイド型のコロニーとして観察された.CsrR欠失株は,カイコ感染モデルにおいて,野生株と比較して高い致死毒性を示したことから,GASの病原性に重要な調節因子であることが示唆された.
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