研究概要 |
A群レンサ球菌(Group A streptococci;GAS)は,局所性化膿性疾患として咽頭炎や膿痂疹を起こすだけでなく,二次性続発疾患として急性リウマチ熱や急性糸球体腎炎を惹き起こす.さらに,頻度は低いが,壊死性筋膜炎やショック症状を伴う劇症型GAS感染症に罹患した場合,高率で死亡することが報告されている.感染病態は,局所性および全身性への感染を呈し,急性や慢性の経過を辿る.GASが多様な解剖学的部位へ様々な疾患を惹起するためには,感染部位において病原因子群の発現を巧みに調節することが必要不可欠である,本研究では,この発現調節の最も上流に位置すると考えられる二成分制御系(Two-component system;TCS)がいかに病原性に関わるかを中心に解析を行った.まず.生存に必須であるTCSを除く全てのTCSについて変異株を作製した.作製した変異株の成長速度,細胞形態,および連鎖の程度を検討したが,通常の培養条件下では,野生株と比較して変化は認められなかった.環境因子として培養温度を変化させ,各変異株の表層タンパク発現を解析した結果,低温培養時において表層タンパクの発現を調節するTCSを同定した.さらに,二成分制御系が病原性に関与するかを検討するため,自然免疫系を備えるカイコ幼虫の体液中に野生株および各変異株を感染させ.生死判定を行った.その結果,感染後24,48時間後において,特定のTCS変異株について,致死率が上昇あるいは下降したことから,これらのTCSは病原遺伝子群の発現調節を行う可能性が示唆された.今後,各TCSが応答する環境シグナルや遺伝子発現調節機構を更に解明することにより,GAS感染症に対する新たな知見を得られることが期待される.
|