エストロゲンによる骨代謝と幹細胞ニッチの制御機構を明らかにするために、エストロゲン(E2)単回投与による雄ウズラの骨髄骨形成モデルを用いて、以下の実験を行った。 1)E2投与後の骨髄内における造血系幹細胞の変動を検討するために、大腿骨から骨髄細胞を採取し、CFU-assayを行なった。その結果、CFU-macrophageあるいはCFU-granulocyte/macrophageが投与後0、1、2日の骨髄細胞に比べて、投与後3日の骨髄細胞で非常に多く形成された。この結果から、E2刺激により骨髄に存在する造血系幹細胞がmacrophage系の細胞に分化が促されたことが推察された。 2)Ficoll/Paqueにより、E2投与後の各日の骨髄細胞から単核細胞/リンパ球のみを分離し、RANKL/M-CSF存在下で培養したところ、投与後3日の骨髄細胞において、TRAP陽性の巨大多核細胞が多数形成された。この結果から、E2刺激により骨髄中の造血系幹細胞は破骨細胞の前駆細胞に分化が促されたことが示唆された。 3)E2投与後の骨髄中の細胞集団の変動を明らかにするため、Flow cytometryによりT細胞、B細胞、単球/macrophageおよびRANK陽性の細胞の割合を検討した。その結果、T細胞およびB細胞はE2投与後1日で増加し、2日以降、減少を示した。一方、単球/macrophageは投与後、増加傾向を示したが、3日で激減した。また、RANK陽性細胞は、投与後1日でわずかに増加し、2日で減少したが、3日で再び増加する傾向が見られた。これらのことから、E2刺激は骨髄の細胞集団を変動させ、破骨細胞の前駆細胞を増加させることが推察された。 以上の結果および平成21年度の結果から、骨髄骨形成過程で骨髄の細胞集団が変動するとともに、造血系幹細胞がニッチ環境から離れ、破骨細胞前駆細胞に分化することが示唆された。これらの前駆細胞はOPG/RANKL/RANKシステムにより破骨細胞に分化することが推察された。また、骨芽細胞は破骨細胞の分化に関与するだけでなく、ニッチ細胞として機能することが伺えた。さらに、エストロゲン刺激は、造血系幹細胞ニッチの制御に関与している可能性が示唆された。
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