Streptococcus mutansはヒト齲蝕の主要な病原細菌であり、本菌の齲蝕誘発メカニズムについては詳細な報告がなされているが、歯周疾患誘発との関連性については、ほとんど知られていない。一方、宿主細胞の自然免疫系は、Toll-like receptor 2 (TLR2)によって細菌由来リポタンパク質(LP)を認識することが示唆されているが、LPの病因論的役割は不明な点が多い。そこで本研究では、S.mutansのLPが宿主細胞のTLR2を介して誘導する免疫活性化作用を解明することを目的とした。 S.mutansの標準株(6種類)ならびに臨床分離株(8種類)を使用し、菌体ならびに菌体から抽出したLPの免疫活性化能を検討した。その結果、S.mutansの菌体刺激では、いずれの菌株もヒト歯肉上皮細胞HSC-2、ヒト単球系細胞THP-1においてIL-8産生を誘導し、TLR2遺伝子を導入したHEK293細胞において転写因子NF-κBを活性化した。また、菌体抽出LPによる刺激も菌体刺激と同様な結果を示した。しかし、TLR2中和抗体の存在下で細胞を刺激すると、上記の活性が完全に阻害された。さらに、菌体抽出LPはリポプロテインリパーゼ処理によって完全に活性を失った。また、マクロファージ様に分化させたTHP-1における被貪食性は、TLR2中和抗体の影響を受けなかった。以上の結果から、S.mutansは菌体のLPがTLR2に認識されることで炎症性サイトカイン産生を誘導しているが、貪食はTLR2非依存的に起こっていることが示唆された。 これらの成果は、平成21年6月28日から7月1日まで開催された第3回ヨーロッパ微生物学会にて報告した。
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