口腔レンサ球菌は歯肉縁上プラークや唾液中に多く存在するグラム陽性菌であるが、歯周疾患誘発との関連性について、その詳細な分子機構は明らかにされていない。一方、宿主細胞の自然免疫系は、Toll-like receptor 2(TLR2)によって細菌由来リポタンパク質(LP)を認識することが示唆されているが、LPの病因論的役割は不明な点が多い。そこで本研究では、口腔レンサ球菌属に含まれる数菌種のLPについて、TLR2依存的な炎症誘導活性が存在するかどうか解明し比較検討することを目的とした。 口腔レンサ球菌としてStreptococcus mitis、S. sanguinis、S. oralis、S. mutans、S. salivariusの各標準株を使用し、菌体ならびに菌体から抽出したLPの炎症誘導活性を検討した。その結果、いずれの菌体もphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)でマクロファージ様に分化させたヒト単球系細胞THP-1(THP-1/PMA)においてIL-8ならびにTNF-αの産生を誘導し、TLR2遺伝子を導入したHEK293細胞において転写因子NF-κBを活性化した。また、菌体抽出LPによる刺激も菌体刺激と同様な結果を示した。しかし、S. salivariusの菌体ならびに菌体抽出LPは、上記の活性において、他の菌種と比べて有意に低い値を示した。以上の結果から、口腔レンサ球菌の菌体由来LPは宿主細胞のTLR2を介して炎症応答を誘導するが、その活性には菌種による違いがあり、S. salivariusは他の口腔レンサ球菌と比べて炎症誘導活性が低いという可能性が示された。
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