平成22年度は、頚椎骨を含めた広範な顎顔面骨組織を対象とした。顎顔面骨部において(マウスおよびラット)、グルタミン酸トランスポーター(VGluT-1)およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)陽性神経線維の分布を詳細に調べた。免疫組織化学法による染色を行った結果(非脱灰組織を中心に)、ラット頭蓋冠の骨膜においてVGluT-1陽性の神経終末が観察された。この結果より、少なくとも骨膜においてVGluT-1陽性神経終末が存在し、グルタミン酸受容体を発現する破骨細胞や骨芽細胞に、末梢神経からのグルタミン酸が働きかけ、骨代謝に神経性由来の因子が関与する可能性を示唆している。VGluT-1陽性神経終末は、骨膜剥離試料を用いた標本では、骨膜の平面上にその分布を観察できたものの、骨そのものを含む標本では、神経線維の全体像を追跡することは困難であった。この課題を解決するためには、トレーサー標識した神経線維上にVGluT-1陽性神経終末を確認する必要があったが、本研究期間において、その段階までに到達しておらず、今後の継続すべき実験項目となった。CGRP陽性神経終末は、骨膜や骨髄を含めて広く分布していることが観察された。さらに、骨膜に存在する陽性神経線維が栄養孔を通り骨髄に至り、分枝を出したのちに神経終末構造が観察された。CGRPは、破骨細胞に直接作用して骨吸収に関連することから、同三叉神経系において、この結果とグルタミン酸トランスポーターの分布とを比較検討し、骨代謝機能に関連した神経回路を明らかにする糸口とする。三叉神経節細胞において、CGRPおよびVGluT-1陽性細胞を確認しているので、トレーサー実験によって起始細胞を同定し、VGluTのサブタイプを含めてどの細胞が骨領域のどこを支配しているのか実験を継続している。
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