研究代表者は、昨年度までに口腔細菌に由来する3つの硫化水素産生酵素の結晶構造を決定した。本年度は、これらの構造情報に基づき、特に硫化水素産生能の高い2つの酵素(Streptococcus anginosus βC-SリアーゼとFusobacterium nucleatum Fn1220)の反応機構解明を主眼とした研究を行った。これらはいずれもL-Cysを基質とし、硫化水素を反応隼成物の一つとして産生する酵素である。βC-Sリアーゼについては、すでに結晶構造を得ていた2段階の反応中間体がExternal aldimineおよびα-Aminoacrylateであることを顕微分光法によっても確認した。これらの中間体がそれぞれ結合した酵素および基質非結合型酵素の立体構造の比較から、βC-Sリアーゼの触媒反応には、酵素そのものの大きな構造変化を伴わないことが考えられた。基質ポケットに結合した酢酸イオンにより、基質分解(硫化水素産生)時のクレフトの開閉が推察されたFn1220では、基質アナログであるL-Serとの複合体の結晶構造を得ることに成功した。L-SerとFn1220の補因子であるピリドキサール-5'リン酸は、共有結合による反応中間体を形成しており、L-Ser部分のカルボキシル基は、基質非結合型酵素で酢酸イオンが結合していた場所とほぼ同じ位置を占めていた。さらに、基質非結合型酵素でクレフトが開いた形をしていたサブユニットにおいても、反応中間体の形成によりクレフトが閉じていることが確認された。このカルボキシル基と直接相互作用するアミノ酸はThr69とAsn142であり、これらをどちらか一方でもAlaに置換すると、基質分解活性が著しく低下した。したがって、これらのアミノ酸は基質のカルボキシル基を認識し、基質をより強固に結合させるためにクレフトを閉じるスイッチの役割を果たしていることが考えられた。
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