研究概要 |
吸啜や咀嚼といった摂食運動時の顎の最も基本的な運動は、閉口筋と開口筋のリズミックな交代性収縮から成り立っている。このようなリズミックな顎運動は、脳幹内に存在する介在ニューロンからなる神経回路網により形成されると考えられているが、その詳細は明らかではない。本研究では、吸啜運動のリズムを形成する神経メカニズムを明らかにすることを目的に、新生マウス脳幹脊髄摘出標本を用いて実験を行った。実験には生後0-2日齢のICRマウスを用いた。ジエチルエーテルで深麻酔後断頭し、酸素を飽和させた氷冷人工脳脊髄液中で中脳下丘から第7頸髄までを摘出した。摘出した標本は、記録用チャンバーに移し、酸素を飽和させた室温(25-27℃)の人工脳脊髄液を灌流した。吸啜運動は口唇への触刺激によって誘発されることから、三叉神経を通る感覚神経の電気刺激を行うことにより吸啜様リズムを誘発した。片側の三叉神経感覚根に、持続時間200 μsec,10Hz,100回の電気刺激を与えたところ、刺激終了の数十秒後から、両側の三叉神経運動根にリズミックな神経発射が観察された。このリズミックな神経発射は、灌流液中にNMDA受容体の拮抗薬であるAPVを加えることにより完全に消失した。また、GABA_A受容体の拮抗薬であるSR95531の投与では、神経発射の数が188%まで増加した。一方、グリシン受容体の拮抗薬であるストリキニーネの投与は、神経発射に有意な変化を与えなかった。以上の結果から、吸啜リズムの神経回路網には、NMDA受容体を介する興奮性の入力とGABA、受容体を介する抑制性の入力が重要であることが示唆された。
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