1.研究の目的 本研究では、歯髄血液の酸素飽和度(SO_2)測定による新たな歯髄診断器の開発のため、歯髄血液SO_2測定に関する基礎理論の確立を目指している。平成21年度は、歯髄血液のSO_2変化の検出の可否について検討し、適性波長を選択することを目的とし、ヒト上顎中切歯の抜去歯を使用した光学的基礎実験を行った。 2.研究の具体的内容 本研究ではヘマトクリット3%の新鮮ブタ血液に、96%O_2+4%CO_2または96%N_2+4%CO_2の混合ガスを作用させ、血液の酸化・脱酸素化を行い、SO_2の異なる血液サンプルを作成した。血液のSO_2値は血液ガス分析器により測定した。血液サンプルのそれぞれについて、血液の透過光スペクトルと、歯髄腔に血液を含む歯牙全体の透過散乱スペクトルを測定し、両者を比較することで歯髄血液のSO_2変化の検出精度を調べた。本研究では、歯髄血液の検出に適しているとされる緑色を含む500~600nmについて解析を行い、さらにヘモグロビンの非等吸収波長である540nm、560nm、577nmにおいて吸光度の比較を行った。光源として白色光を使用し、透過光を分光器に取り込み500~600nmにおける吸光スペクトル(Absorbance(lnI_0/I_t))を取得した。また、照射・受光用光ファイバの尖端には歯髄腔に焦点を合わせた集光用の半球レンズを付与した。測定の結果、SO_2が22%、45%、80%の血液サンプルそれぞれにおいてスペクトルは概ね一致し、3つの非等吸収波長の吸光度についても概ね一致した。本研究では、ヘモグロビン吸光度の高い非等吸収波長を用い、光ファイバ尖端のレンズにより効率的に光を歯髄腔へ到達させることで歯髄血液のSO_2変化を検出することができたと考えられる。今後はこれらの適性波長を使用した基礎実験を進めると同時に、試作器の製作やヒト歯髄脈波測定を行い、歯髄の病態とSO_2の関係についてさらに検証していく予定である。
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