1.研究の目的 初年度の抜去歯の光計測により本研究の目的である歯髄血液酸素飽和度測定において、500~600nmの波長が適していることが示唆された。平成22年度は、ヒト歯髄脈波測定においてこれらの波長領域のLEDが使用可能であるかどうかを検証し、さらに抜去歯の歯髄脈波シミュレーションモデルにより歯髄血液SO_2の推定を行うことを目的とした。 2.研究の具体的内容 a.ヒト歯髄脈波の測定:歯髄血液の酸素飽和度測定には複数の波長が必要であるため、470nm、525nm、590nmの3波長の高輝度発光ダイオード(LED)を選択し、健全なヒト上顎中切歯の歯髄脈波測定を行った。その結果、いずれの波長でも脈波の検出が可能であり、特に525nmと590nmではノイズの少ない明瞭な脈波を検出することができた。 b.歯髄脈波シミュレーションモデルとSO_2予測に関する考察:抜去歯による歯髄脈波シミュレーションモデルにより、歯髄血液SO_2の予測方法について実験的・理論的考察を行った。ヒト上顎中切歯の抜去歯の歯髄腔内ヘシリコンチューブを挿入し、ヘマトクリット3%のヒト血液を還流させ、ダイヤフラムポンプにて疑似脈波を発生させた。血液の酸素化および脱酸素化にはそれぞれ96%O_2+4%CO_2または96%N_2+4%CO_2の混合ガスを作用させた。血液のSO_2値は血液ガス分析装置により求めた。歯髄脈波測定には470nm、525nm、590nmのLEDを使用し、透過光強度全体(V_t)に占める歯髄脈波振幅(V_<P-P>)の比をそれぞれ求めた。結果より、590nmと525nm、590nmと470nmの組み合わせにおいて2波長の透過光量変化の比率φ(=In(V_<p-p>/V_t)_<λ1>/In(V_<p-p>/V_t)_<λ2>)と歯髄腔内血液SO_2には強い相関が認められ、これを利用してSO_2を予測できる可能性が示された。複数波長の光電脈波を使用することで歯質での光減衰の影響がある程度相殺され、歯髄腔内血液のSO_2変化を検出することができたためと考えられ、今後は、歯質の厚みや歯髄腔の大きさなど歯の解剖学的形態が異なる歯牙で、歯質の光減衰の影響についてさらに詳細に検証していく予定である。
|