本研究は、欠損補綴治療が終了した症例の残存歯の生存について臨床データを収集・蓄積し、データベースを構築すること、また欠損拡大に関連する因子について検討することを目的としている。本年度の計画は前年度に行った後ろ向き研究の大阪大学歯学部付属病院の過去5年間の症例の臨床データ収集をもとに製作したデータベースにさらに多くのデータを追加したのち、欠損拡大に関連するデータについて分析、検討し、どのような要因が欠損の拡大を引き起こしやすいかを明らかにすること、ならびに欠損の拡大を予測し得るシュミレーションを開発することであった。データ収集は2004年度ならびに2005年に来院され、義歯を製作した全844件の診療録を調査し、そのうち抜歯が行われたケース322件について終了した。 分析の結果、部分床義歯の支台歯はそうでない歯にくらべ、破折による抜歯の割合が高いことや上顎の支台歯は下顎の支台歯にくらべ、臼歯は前歯にくらべ、臼歯部の咬合接触がないものは咬合接触があるものにくらべ、同顎の残存歯数が少ないものは多いものにくらべ、失活歯は生活歯にくらべ抜歯される割合が高いことなどが明らかとなった。 つまり本研究の結果より、上記のような条件を満たすような歯は将来的に欠損する確率が高くなる可能性が示された。またさらに、Coxの比例ハザードモデルの構築により、各要因のハザード比も算出されており、例えば鉤歯を選択する際、前歯を鉤歯にする事は臼歯部にくらべて2倍、失活歯は生活歯にくらべ1.6倍のリスクがあることなど、患者指導や治療計画の立案の際にも非常に有用なデータを得る事ができた。
|