歯科インプラントは補綴治療の有力なオプションのひとつとして定着してきている。しかし、インプラント部材であるチタンと骨との確実な結合が得られるまで3~4カ月を要し、より早期での骨結合を目指しさまざまな研究がなされている。材料自身が発電を行う現象として圧電効果が知られている。圧電効果は、材料に歪を与えることで分極が生じ、電圧が発生する現象である。本研究ではこの材料に着想を得て表面に圧電セラミック被膜を生成した即時荷重チタンインプラントを想定し、インプラントに対する繰り返し荷重によりチタン-圧電セラミック間に繰り返し発生する電流によるハイドロキシアパタイト析出促進の有効性を検討することを目的とした。 今年度は、昨年度に引き続きチタン表面の圧電セラミック被膜生成条件の検討を行い、より多くのチタン酸バリウム結晶が得られる条件を探索した。また、実際に作製した試料を用いて、擬似体液中での繰り返し負荷試験を行った。本試験は疲労試験機を用いたが、液体浸漬試験用容器を設置し、より生体内での環境に近づけた状態での試験を行った。 圧電セラミック被膜生成条件に関しては、温度、圧力以外にもpHにも効果が左右されることがわかり、今後パラメータを増やして最適条件を求める必要がある。疑似体液内での繰り返し荷重試験では、実験に用いたほとんどの試料において、コントロールに比べてハイドロキシアパタイトの析出が認められた。事象として、実際にアパタイト析出が起こりうることは確認されたため、今後は、圧縮時の表面電位の変化を測定し、アパタイト析出量が最大となった試験条件における負荷、チタン酸バリウムの結晶性から、最も析出を促進する発生電圧を明らかにする。これにより、現在鋭意進められている生体適合型圧電セラミックの研究開発の中から、アパタイト析出を促進する候補材料を選定する際の重要な指針を提示することができると考えている。
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