研究概要 |
【目的】過剰咬合によるメカニカルストレスは歯槽硬線の消失、歯根膜腔の拡大及び歯槽骨吸収を伴う咬合性外傷を誘発することはよく知られている。しかしながら、この咬合性外傷の要因となる過剰メカニカルストレス(eMS)と歯槽骨吸収との関連性については未だ明らかではない。我々は、in vivoとin vitro咬合性外傷モデルを用いてC-Cケモカイン発現と歯槽骨吸収について検討した。この結果、eMSは歯根膜組織にCCL2の発現を増加させると共に歯槽骨に多核のTRAP陽性の多核細胞を出現させた。そこで、今回CCL2とその受容体CCR2の欠損マウスを用い、eMSによるケモカインの発現及び歯槽骨吸収について検討した。【方法】野性型マウス(WT)、CCL2欠損マウス(CCL2(-/-))、及びCCR2欠損マウス(CCR2(-/-))を用い、咬合性外傷モデルを作成した。in vivoモデル:5週齢マウスの上顎臼歯部にスチールワイヤーを接着して早期接触を付与して経時的に下顎骨を採取した。脱灰後凍結標本を作製しTRAP染色,HE染色及びC-Cケモカイン(CCL2,CCL3及びCCL5)の免疫染色を行った。in vitroモデル:マウス歯根より初代歯根膜細胞を単離し、ストレッチチャンバー上にてeMSを最長7日間加えて培養し、ケモカインの発現についてPCR法、Western blotting法及びELISA法により検討した。【結果と考察】WTの歯槽骨では、TRAP陽性細胞はeMS刺激時間依存性に増加し、同時に歯根膜にCCL2とCCL3の発現、特にCCL2の発現が有意に増加した。一方、CCL2(-/-)とCCR2(-/-)マウスの歯槽骨では、無刺激に既にTRAP陽性細胞の発現がわずかに認められた。さらに、WTと比較して歯根膜にCCL3の発現が補償的に上昇していた。これらCCL2シグナル欠損マウスにおいてもTRAP陽性多核細胞とCCL3の発現は共に刺激依存性に増加した。以上の結果よりCCL2はeMS依存性に発現しTRAP陽性細胞の誘導に関連することが解った。さらに、CCL2シグナル欠損によりCCL3がこの働きを補足的に担うことより、過剰咬合性メカニカルストレスによりCCL2とCCL3は協調して咬合性外傷を誘発することが示唆された。
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