研究概要 |
高齢化社会の急速な進展により,顎堤が高度に吸収し,さらに粘膜が菲薄化した無歯顎者が増加しており,軟質裏装材の必要性が高まっている.しかし,軟質裏装材は,吸水や可塑材の溶出による劣化,床用レジンからの剥離,着色や細菌による汚染など,多くの問題が見られる.これまでフッ素樹脂は,撥水・撥油性,耐汚染性,化学的安定性などの特性から,歯科領域への応用が試みられてきた.また,さきの研究では,1分子中のフッ素原子数が多いフッ素系モノマーを用いることで,適度な粘弾性と高い耐汚染性を示したことを報告した,本研究では,現在入手可能な,1分子中のフッ素原子数が多い,フッ素系モノマーを用いて,今後臨床応用可能なフッ素系軟質裏装材を開発する上での必要な理工学的性質について検討した.本年度は,メタクリル酸ドデカフルオロヘプチル(12F),メタクリル酸トリデカフルオロオクチル(13F)の2種類のフッ素系モノマーを用いフッ素系軟質裏装材を作製し,初期物性の評価として,吸水・溶解試験,着色試験,クリープ試験を行った.12Fや13Fを使用することで,従来のアクリル系軟質裏装材よりも、吸水量・溶解量を低下させることができ,着色も抑えることができた.また,従来のアクリル系軟質裏装材と、同等以上の粘弾性を得ることができた.以上フッ素系軟質裏装材に関する試験結果は,平成22年度日本補綴歯科学会第119回学術大会および第88回IADRにて発表し,原著論文として投稿中である.来年度はアクリル系軟質裏装材のみならず,シリコーン系軟質裏材も含め,評価し,長期物性にについて検討する.
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