研究概要 |
1分子中のフッ素原子数が多いフッ素系モノマーである,ドデカフルオロヘプチルメタクリレート(12F)を用いたSR12Fとトリデカフルオロオクチルメタクリレート(13F)を用いたSR13Fの2種類のフッ素系軟質裏装材を,アクリル系(ベルテックスソフト:VS)とシリコーン系(モロプラストB:MB)の軟質裏装材と比較し,粘弾性,吸水・溶解性,耐着色性に関する基礎的な物性評価を行った.粘弾性に関しては,本研究に供した軟質裏装材は,粘性要素が極めて少ないMBと,粘性要素を含んだSR12F,SR13F,VSに分けられた.SR12FとSR13FがVS,MBより有意に大きい塑性流動を示したことは,試作フッ素系軟質裏装材が咀嚼中の応力を大きく緩和しうると考えられる.吸水性・溶解性に関しては,試作フッ素系軟質裏装材では,フッ素原子による撥水性の発現により,吸水量が小さくなったと考えられる.また,SR12FとSR13FがVSより有意に小さい溶解量を示したことは,フッ素系モノマーがアクリル系モノマーより水中に溶出しにくいことを示し,試作フッ素系軟質裏装材においては,成分の溶出による材質の劣化,口腔粘膜への刺激を抑えられると考えられる.耐着色性に関しては,試作フッ素系軟質裏装材において,コーヒー水溶液とβカロチン/オリーブオイル溶液に対して耐着色性を示したことは,フッ素原子による棲水性のみならず,撥油性も発現したことが考えられる.また,SR13FはVSに比べて,大きな粘性流動を示し,有意に小さい吸水量と溶解量を示したことから,SR13Fは,長期に安定した粘弾性的性質をもつ可能性が示唆された.
|