研究概要 |
現在の日本では他人からの他家移植は受け入れられにくく,免疫反応や感染等の危険性が少ない自己細胞のニーズが高まっている。しかし,間葉系幹細胞の分化能は個人差が大きく,間葉系幹細胞を用いた骨再生治療の失敗の原因の1つに,細胞株によっては骨分化能を有さない,あるいは骨分化能が低いことが挙げられる。現在,各細胞株の骨分化能を判断するための幾つかの方法があるが,いずれも最終的な判断を下すには長期間の培養が必要である。そこで本研究は,探索した転写因子を用いた骨分化能判定の期間を短縮可能なキット作成のための基礎研究を目的とする。前年度に選定した,MSCの骨分化初期に特異的に発現が亢進する転写因子に対するSmall Interfering RNA(siRNA)をリポフェクション法を用いて間葉系幹細胞に導入し,各転写因子の発現抑制が細胞に与える影響を以下の項目に関して検討した。(1)リアルタイムPCRを用いたsiRNAの効果判定(ターゲット遺伝子のノックダウン効率の検討),(2)DNA定量を用いた細胞数のカウント(細胞増殖への影響),(3)リアルタイムPCRを用いたアルカリフォスファターゼ(ALP)mRNA発現レベルの変化(ALP mRNAレベル),(4)ALP酵素活性の定量(ALP活性定量),(5)視覚的な石灰化度の確認(アリザリンレッド染色),(6)細胞層中のカルシウム量の定量(カルシウム定量),の検討を行った。上記の実験から,MSCの骨分化に促進的に作用している転写因子とMSCの骨分化に抑制的に作用している転写因子が存在することが確認できた。これらの結果は,MSCの骨分化の初期からネガティブフィードバック機構が作動していること,本研究で選定した転写因子がMSCの骨分化マーカーとして有用であることを示唆している。
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