研究概要 |
生体吸収性高分子材料であるポリ乳酸(PLA)は生体適合性に優れるため、再生医療分野において組織再生用足場などの生体材料として応用されている。本研究の目的はファイバーを基材とする骨再生医療用材料の開発である。本年度ではエレクトロスピニング法を応用することで、ポリD,L一乳酸(PDLLA)ナノファイバーシートを作製し、その最適な作製条件の決定およびin-vitroにおけるアパタイト生成能について評価した。本研究では出発原料として、アルキル基末端であるPDLLAと、カルボキシル基末端であるPDLLA-COOHの2種類を使用した。また溶媒にはヘキサフルオロイソプロパノールを用いた。溶液濃度がナノファイバーの形状に及ぼす影響を検討するため、溶液濃度が5、10および15wt%のPDLLA溶液とPDLLA-COOH溶液をそれぞれ調製した。エレクトロスピニングの実験条件は、印加電圧15kV、溶液量2.0ml/h、ノズル間とターゲットまでの距離10cmとした。エレクトロスピニングによって作製したシートの電子顕微鏡(SEM)観察の結果、溶液濃度5wt%についてはファイバーが形成されず、多くのビーズ状形成物が確認できた。また10wt%についてはビーズとファイバーが混在している様子であった。15wt%についてはビーズが全く観察されず、ファイバーのみが形成されている様子が確認できた。アパタイト生成能を確認するため、溶液濃度15wt%で作製したナノファイバーシートを疑似体液(ハンクス溶液)に浸漬した結果、PDLLAおよびPDLLA-COOHファイバーシートともに浸漬1日後に結晶物の生成が確認でき、浸漬7日後ではファイバーシート表面がすべて結晶物で覆われていた。またこの結晶物は薄膜X線回折(XRD)によりアパタイトであることを確認した。さらにSEM観察および薄膜XRDのピーク強度などから、PDLLA-COOHの方がPDLLAにくらべてアパタイト生成能に優れていることが示唆され、これはカルボキシル基がアパタイトの生成を誘起したものと考えられる。
|