歯科修復材料であるコンポジットレジンは咬合負荷の少ない欠損部の修復に用いられており、審美性、操作性、耐久性が向上したコンポジットレジンが開発できれば、より複雑な形態の窩洞に対するコンポジットレジン修復とチェアータイムの短縮が可能となると期待されている。本研究は重合収縮時に歯面に掛かる応力を分散するためにシクロデキストリンで被覆された貫通型の錯体をモノマーの一つとして添加することで、フィラー含有量に囚われない、新しいコンポジットレジンの開発を目的としている。前年度までに、シクロデキストリンがBis-GMAと擬口タキサン型の錯形成をすることを見出した。それを踏まえ本年度では、コンポジットレジン成分内にシクロデキストリンを添加して擬口タキサン化する実験を行ったところ、コンポジットレジン成分内では擬口タキサン化は進行しないことが明らかとなった。そこで、コンポジットレジンに含まれる有機成分とより親和性の高いカプセル型の中空構造を有するヘミクリプトファンをシクロデキストリンの代替材料とすることを検討した。ヘミクリプトファンはTEGDMAと錯形成が可能な程度の空孔を有するように新規に設計した。実際、シクロトリベラトリレンから多段階合成を経て実用的なスケールでの大量合成に成功した。得られたヘミクリプトファンは空孔内に金属イオンを内包する事も見出した。また、Bis-GMAやTEGDMAなどのコンポジットレジンの有機成分にも十分溶解することを見出した。本研究成果により得られた新規ヘミクリプトファンは空孔内でTEGDMAと擬口タキサン化しながら重合することも可能となるため、今後擬口タキサン構造を利用した重合収縮を抑えたコンポジットレジンの実用化のための重要な知見が得られた。
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