歯髄には間葉系由来の歯髄幹細胞が存在することが知られている。マウス歯髄幹細胞についてマウス下顎切歯由来のクルードな歯髄細胞が脂肪、骨、さらに骨格筋への分化能を有していることを明らかにした。これらの結果から歯髄中に間葉系幹細胞様の歯髄幹細胞が存在することが示唆されたが、歯髄幹細胞をより効率よく、高純度に取りだすために、マウス下顎より分離した切歯歯髄細胞について、間葉系幹細胞マーカー(Sca-1、PDGFRα)を用いたフローサイトメトリー解析を行った。骨髄ではCD45陰性分画において、Sca-1とPDGFRαの共陽性細胞が間葉系幹細胞として高い能力を有していることが報告されているが、マウス下顎切歯歯髄においても骨髄同様にCD45陰性でSca-1とPDGFRα陽性の細胞が存在することが示された。この細胞はSca-1とPDGFRα以外に、CD29、CD49e、CD105、PDGFRβなどの間葉系幹細胞マーカーの発現が認められたが、神経幹細胞マーカーや内皮細胞前駆細胞マーカー、さらにCXCR4を含む造血前駆細胞マーカーについては発現が認められなかった。さらに歯髄幹細胞をソーティングにより予期的に分取し、この細胞の特性をin vitroにおいて解析した。その結果、歯髄由来Sca-1、PDGFRα共陽性細胞は高い増殖能を有しており、脂肪、骨への分化能を有していた。歯髄幹細胞の常生歯における局在にっいて、マウス下顎の蛍光免疫組織化学を実施した結果、Sca-1、PDGFRα共陽性細胞が常生歯形成端に存在することが示唆された。また、切歯形成端において幹・前駆細胞の維持に関与しているとされるNotch受容体とその関連分子の発現を歯髄由来Sca-1、PDGFRα共陽性細胞について解析した。Sca-1、PDGFRα共陽性細胞はNotch受容体やそのリガンド、Notch修飾に関わる分子を発現しており、Notchシグナルによって未分化性を維持している可能性が明らかとなった。以上より、Sca-1、PDGFRα共陽性の歯髄幹細胞がマウス切歯における幹細胞ニッチと考えられている常生歯形成端に存在し、間葉系幹細胞様の増殖能、分化能を有することが示唆された。
|