狭帯域フィルター内視鏡(NBI)を口腔領域に導入し、上皮層内に取り込まれ孤立した様相の異常微小血管(上皮内血管)を中心に口腔粘膜悪性境界病変の客観的な早期診断、とりわけ上皮内癌、初期浸潤癌の早期診断を実現させる目的で、研究を行った。検討した病理組織標本は、正常粘膜15例、中等度異型上皮33例、上皮内癌36例、扁平上皮癌12例。血管内皮マーカーのCD31および、基底膜マーカーのIV型コラゲンの免疫組織化学を行い、上皮内血管の数量的解析および口腔粘膜形態(上皮釘脚)の解析を行った。上皮内血管の計測方法は、各病変ごとにすべての上皮内血管数をカウントし幅1mmあたりの血管数を算出した。結果は正常上皮、異型上皮が約2個/mmであったのに対し、上皮内癌は5.5個/mmで有意差を持って、上皮内血管が多いことが示された。また、上皮内血管の位置に関しては、粘膜表面から血管までの距離は、正常上皮で最大、異型上皮で最小であり、各病変間に有意差を認めた。上皮釘脚の長さは異型上皮よりも上皮内癌で有意に長いことから、上皮内血管は上皮内癌細胞の下方増殖に伴い、本来粘膜固有層に位置していた血管が、巻き込まれたため、上皮内に孤立しているように見えるものと考えられた。さらにこの現象は、釘脚周長が異型上皮より、上皮内癌で有意に長いこという結果から考えると、上皮内癌では、より複雑な突起形状を有すると考察できることからも見解が一致する。また、上皮内血管の存在する釘脚では表層から血管までの距離(A)、上皮釘脚の長さ(B)に関して、A/Bは上皮内癌で最小であった。したがって、上皮の長さを基準にして考えた時、上皮内癌で最も表層近くまで血管が侵入している印象があつた。扁平上皮癌では、極表層近くにも、血管は配置し、その数も他の病変と比較し圧倒的に多かった。以上の結果から、NBIがとらえる悪性化に伴って見出される、血管は上皮内血管である可能性が極めて高いと考えられた。
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