本研究ではヒト間葉系幹細胞(hMSC)の骨分化過程におけるWntシグナルおよびその阻害剤であるsFRP-3に着目し、hMSCの培養過程においてsFRP-3を用いて骨分化誘導を行った場合、早期の骨再生が可能となり、その結果増殖因子を用いることなく効率的な骨再生医療が可能になると考え実験を行った。 まず、hMSCの培養過程においてsFRP-3を添加し骨分化誘導を行った場合、非添加群に比べ、分化誘導開始7日目において石灰化の亢進を認め、さらにリアルタイムRT-PCRを用いて骨形成関連遺伝子の発現の検討においてもアルカリフォスファターゼ、1型コラーゲン、オステオカルシン、Runx2の発現の上昇を認めた。さらにラット頭蓋骨骨欠損モデルへの移植実験において移植後にμCTおよび組織学的評価を行ったところ、移植後2週という早期より非添加群に比べsFRP-3添加群における骨造成量の上昇を認め、組織学的にも新生骨の造成が確認された。 これらの結果は現在臨床応用が進められているヒトMSCを用いた骨再生医療において、従来考慮されていなかったWntシグナルの作用を利用することにより、より早期かつ効果的に骨分化誘導を行うことが可能であることを示唆するものである。このことは細胞培養にまつわる時間およびコストの軽減にもつながる可能性があり、さらに増殖因子などを利用せずして短時間でより良質な骨再生を実現しうる可能性を示した点で、本研究は一定の成果を得たものと考える。
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