近年、種々の悪性腫瘍に対して多種多様の分子標的薬が開発され、臨床応用されている。しかしながら、現時点では本邦において口腔癌治療に使用できる分子標的薬は存在しない。分子標的薬は、ある特定の分子に結合し、その機能を抑制するため、他の癌腫に使用されている分子標的薬でもその標的分子よっては口腔癌に対する抗腫瘍効果も十分に期待できる。そこで、本研究では種々の悪性腫瘍の治療にすでに使用されている分子標的薬の口腔癌治療への応用を目指した。まず、培養ヒト口腔癌細胞10株を用いて分子標的薬の標的分子(グリベック:ABL1、BCR、KIT、PDGFRA、PDGFRB;イレッサ:EGFR;ネクサバール:BRAF、FLT3、FLT4、KDR、KIT、PDGFRB、RAF1;スーテント:CSF1R、FLT1、FLT4、KDR、KIT、PDGFRA、PDGFRB、RET)の発現を検索したところ、ABL1とEGFRの発現亢進が全ての細胞株に共通して認められた。つづいて、ABL1およびEGFRに対する合成small interfering RNAの口腔癌細胞増殖に及ぼす影響を検討した結果、ABL1の発現抑制は細胞増殖を阻害したが、EGFRの発現抑制は細胞増殖にほとんど影響を与えなかった。また、培養ヒト口腔扁平上皮癌細胞を用いて、in vitroグリベック感受性試験の確立を試みたところ、細胞とアテロコラーゲンの混合液を用い、7日間無血清培養を行ったのちにWST-8にて細胞数を評価する系でグリベック(3μM)に対する感受性が評価可能であった。以上の結果より、グリベックが口腔癌治療に応用可能であることが示唆された。
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