研究概要 |
われわれは,口腔扁平上皮癌のリンパ節転移過程において,ケモカインレセプターCXCR4を発現している癌細胞がリンパ節間質の産生するリガンドstromal cell-derived factor(SDF)-1に引き寄せられながら転移していることを見いだしてきた.SDF-1は長年CXCR4に対する唯一のリガンドとして考えられてきたが,近年新規ケモカインレセプターであるCXCR7がSDF-1と結合することが明らかにされた.SDF-1/CXCR7システムは,SDF-1/CXCR4システムとは異なり細胞増殖や細胞接着に関与すると考えられており,SDF-1を阻害することで口腔扁平上皮癌の増殖と転移を集学的に阻害できる可能性が示唆される.平成21年度は10μg/bodyの抗マウスSDF-1抗体を使用し,CXCR4とCXCR7を共発現しているB88細胞の咬筋内同所性移植における転移抑制実験を行ったが,転移抑制効果は認めなかった.そこで本年度は,SDF-1抗体の投与量を倍量の20μg/bodyとし,投与経路に関しても腹腔内と静脈内投与を比較することで,上述の仮説が可能か否か検証した.その結果,双方の投与経路にて定量性PCRによる転移細胞数の減少傾向が確認されたが,特に静脈内投与群ではデータにばらつきを認めた.また,咬筋に生じた腫瘍体積においても,SDF-1抗体投与群とコントロール群で有意な差は観察されなかった.さらに,比較実験として行ったCXCR4の特異的阻害剤であるAMD3100の皮下投与群と比較すると,SDF-1抗体投与群における転移抑制効果は低かった.以上の実験結果より,SDF-1抗体によるCXCR4とCXCR7の抑制はin vivoでは困難であるが,CXCR4特異的阻害剤であるAMD3100は,in vivoにおいてもCXCR4の抑制効果が強く,転移抑制効果を発揮することが示唆された.
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