ステロイドホルモンの一つであるアンドロゲンレセプター(AR)は前立腺癌において発現しており、アンドロゲンにより腫瘍の増殖が亢進する一方で、抗アンドロゲンの投与により腫瘍増殖が抑制されることが知られている。唾液腺癌においてもARが発現しているとの報告がなされている。特に、唾液腺導管癌においては、免疫組織学的にARの発現を確認された症例に抗アンドロゲンが投与され、その結果腫瘍の増大が抑制された症例の報告がなされている。しかしながら、腺様嚢胞癌、粘表皮癌といった比較的症例数の多い唾液腺癌におけるARの役割についてはほとんど検討がなされていない。そこで、唾液腺癌におけるARの役割について検討をおこなった。H21年度に引き続いて症例を増やして、ARの発現を前立腺癌で実際に使用されているDakoのシステムを用いて免疫組織学的に検討した。腺様嚢胞癌7例、粘表皮癌8例、腺癌2例、腺房細胞癌1例、多形性腺腫内癌1例の合計19例について免疫染色をしたが、いずれにおいてもARの発現は認められなかった。すでに樹立されている唾液腺由来細胞株HSG、HSY細胞については、H21年度にWestern blotting法によりARを発現していないことを確認したが、さらに唾液腺癌由来細胞株であるACCMについても追加でWestern blotting法によりAR発現を検索したが、発現は認められなかった。以上の結果より、唾液腺癌においてはARは発現していないかもしくは発現頻度が低いと考えられた。
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